父が詐欺にあった。
寝台特急で朝地元に到着し、迎えに来てくれた父と無事合流して
最初に何故かお金の無心をされた。
今日の午後には3倍にして返すから少しお金を貸して、と。
支払いは所得税とも聞いた。
何せ、実の親だ。
今まで散々お世話になってきた。
何も疑うことなく了承した。
金額は数万円。
父は振込をATMでしたいのだが、30万円程ってATMでできるのかと気にしていた。
銀行ではATMに数人並んでいたので、父は窓口に向かった。
(結果から言うとその父の行動が詐欺発覚とこれ以上の被害の防止のきっかけとなった)
窓口で、振込先を見て、初めて私は疑問を持った。
受付の銀行員の女性は私より遥かに危機感を持ったと思う。
振込先がなんと
個人名だったのだ。
私の口が滑った。
「所得税とか言ってなかった?」
銀行員の女性はとりあえず所定の用紙に父に記入を促し、その間にその振込先を書いたメモをまずは先輩の女性行員に見せて話し、見せられた女性行員はもっと後ろにいる男性の行員に同じことをした。
そして私たちの前にやってきたのはいちばん奥に座る男性だった。
父はいきなり不機嫌になった。
「だから窓口で振込みたくなかった」
「相手は知り合いで、お互いに、窓口で怪しまれるのを危惧していた」
「早く振り込まなければ私の信用に関わる」
などと言い、とにかく早く振り込ませてくれという姿勢だったが、相手のことを明かさないし、具体的な質問にはほぼ答えなかった。
行員に奥の人目につかないところに促され、そこで座る。
行員は
「事件性の有無を確認するために警察の担当者を呼びました。そこで担当者の方とお話を聞かせてください」と、口調こそ柔らかかったが、父の懇願を聞き入れることはなかった。
程なくして警察官が2名来られた。
私はその時まで何も知らなかったのだが、父はとある女性と結構な期間LINEで言葉を交わしていたらしい。
それを警察官に見せるよう促された時に父は最初嫌がったのだが、しぶしぶスマホを取り出し画面を警察官に見せた。
盗み見したLINE画面には女性の名前
振込先の個人名は男性の名前
LINEを結構遡り
見ていた警察官はきっぱりと
「これは詐欺です、間違いありません」
と私たちに言った。
そこからは
父と私は別々に、警察官と話をすることとなった。
何せ私は今朝地元に着いて父にお金の無心をされたこと以外何も分からない。
状況を話している途中に父と話していた警察官が戻ってきて、私と話している警察官に
「ロマンス詐欺、30万円」
と告げた。
LINEを利用して見ず知らずの人間に話しかけて、時間をかけて巧妙に相手の懐に入り込み、詐欺とは思わせない金額から騙し取るという手口を「ロマンス詐欺」と呼んでいるそうだ
父は結局その相手に10万円、3回振り込んだということが分かった。
父も詐欺だということを認めたのか、戻ってきた時には書きかけた振込用紙はビリビリに破られていた。
母が旅立ち2年
自身もがんが身体に見つかって手術をした。
コロナ禍でこれまで有った外での人との交流が次々に減り
とても不安で、寂しくもあったのだろう
そう思うと、いたたまれなかった。
そして、そういうところに漬け込む輩は本当に許せなかった。
警察官はLINEのその女性の振込先が書かれた部分を写真に収め、その女性をブロックしてくれた。
ついでに設定を、知り合い以外からのものを受け付けないように変えてもらった。
あまりに衝撃的で、帰りの車の中で私はかける言葉を見つけるのにとても苦労した。
そして、そのことには遂に触れられなかった。
今になって
父が騙し取られた金額が30万円で済んで良かったと思うと同時に、30万円ものお金を奪われた父がどれだけ悔しくて辛いのを抱え込んでいるのだろうかと思うと
やっぱりしんどいのである。